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経営視点による情報活用戦略

経営視点による情報活用戦略(その9)

 

「コモディティ市場で過当競争を続けている業界にある企業はどうすれば生き延びることができ、しかも高収益の体質に転換できるのだろうか。」

 

この課題に対する戦略的な対応は二つ考えられる。一つは個客対応であり、もう一つは外部資源の活用である。外部資源の活用のあり方として複数の企業内部の資源を外部化し、これを複数企業が共有することが考えられる。前回までは同じ事業領域のなかで熾烈な過当競争を繰り広げている企業群が、徹底したコスト削減を目的に外部化した内部資源を共有する形で合従連携することを見てきた。今回は情報システムの領域でのこうした合従連衡のための企業間プラットフォームについて考えてみたい。

 

情報システムは企業にとってもはや不可欠な機能になっているが、それに伴って投入されるコストも膨大になっている。しかも投資コストに見合う効果が果たして実現しているだろうかという疑問を持たれながらも、その実態についての解明が本格的になされないまま、必要悪あるいは聖域のような領域となっている。したがって企業が危機的な状況に立たされて、大幅なコスト削減が必要となった時にも、新規投資を抑えるという消極的な打ち手が唯一の対応策となっているのが一般的だ。

 

欧米では情報システム投資によって間接部門の生産性を飛躍的に高めてきた。しかし日本では必ずしもそうなってはいない。日本では企業が自前で情報システム投資をする。そして社内の利用者にとって使い勝手の良いシステムを個々の企業が競い合って開発する。個別最適を狙ったシステム開発がおこなわれることが一般的で、ここに過剰性能、したがって過剰コストという思わぬ落とし穴が設けられ、一向に生産性に寄与しない投資がほとんどの企業で行われてしまうことになる。

 

例えば、実現することは受発注納品在庫管理、それに伴う請求回収の売掛金管理という多くの企業で普遍的な業務であるにしても、情報システムは個別に設計され、開発される。しかも開発設計に関わる要員まで自前で抱え込んでいる企業が多い。生産設備ならば同業に属する企業において基本機能は同一でも、そこに付加されるノウハウの違いが企業の利益構造を変えてしまうくらい大きな価値を持つことになる。したがって各企業はしのぎを削って生産システムの独自性にこだわる。つまり生産システムは企業のコアコンピタンスにすることができる。しかし受発注納品在庫管理や売掛金管理の情報システムはコアコンピタンスにはなりにくい。コアコンピタンスにつながらないところに人材や、資金を集中することは大きな意味を持たない。

 

基幹業務に関わるERPシステムが登場し、企業がこぞってこれを採用したのはこうした事情が背景にある。つまりコアコンピタンスにつながらない業務領域については出来合いの標準システムを採用すれば、個別企業は開発や運用のコストを大幅に削減できるということだ。しかもグローバルに洗練されたベストプラクティスのシステムを使うことができるという大きな価値を伴ってだ。

 

しかし日本でのERPの導入において欧米とは様相を異にする特徴が観察される。たとえばせっかく標準化されたベストプラクティスをそのまま使わずに、アドオン(add-on)と称する個別化を行って、個別企業の特殊なやり方に合わせることを実施することが多くの企業で見られる。こうした個別化を行うことで無駄なコストがかかり、導入のための時間が長期化する。

 

ERPの導入にあたっての要点はそのまま使うということだ。仮に業務手順をそのままにしてはERPが使えないとしたら、業務手順を変えてERPに合わせるべきなのだ。そうして初めてERPの導入コストと導入後の効果を最大化することができる。

 

ERPのメーカーは一つではない。大手ではSAPとORACLEが競いあって性能向上に社運をかけている。ユーザーは比較検討してコストパフォーマンスを最大化する製品を選択すればいいのだ。たとえばSAPを導入したあとで、ORACLEが革新的な製品を提供し始めて、こちらに乗り移るのがベストという事態になったら、ORACLEに乗り移ればいいのだ。しかし業務手順をERPに合わせておかなかった企業はその選択の余地は無くなる。したがって競争力も失うことになる。業務手順の独自性が競争力の源泉であると思っていたことが裏目に出てしまうのだ。

 

またERPは技術革新とともに製品のバージョンアップが頻繁に行われる。バージョンアップをするかしないかはもちろんユーザーの意思で決められるが、もしすることが大きなメリットを享受できるとしたときに、例のアドオンがあるとバージョンアップにも余分なコストと時間が必要になってしまう。

 

ERPシステムをアドオンせずそのままの形で導入した企業の典型はEPSON社だ。EPSON社はグローバル基幹業務システムとしてSAPを導入し、導入に際してそれまでの業務手順を世界的な規模で一挙にSAPに適合する形をとった。業務手順を世界規模で一挙に変えるにあたって、世界中のスタッフ代表を組織しプロジェクトを編成しこれを実現した。こうしてEPSON社はSAP導入に関わるコストと運用に関わるコストを最小化した。

 

ところでERPを導入した企業は、相互に熾烈な競争をしていても、その基幹業務システムはほぼ同様の手順で動くことになる。こうなると競争しあう企業の基幹業務システムは共通化されることになるので、それぞれが独自に装備し、運用することの無駄が見えてくる。ではERPを導入している企業間で基幹業務システムを外部化して、共通化しこれを企業間で共有することはどのような形で可能になるだろうか。これを次回以降考えてみたい。(続く)

 

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■     中田康雄事務所:nakatayasuo.office@gmail.com

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