優れたビジネス・コンサルタントたちは、IT導入のプロジェクトであっても戦略定義や組織設計のフェーズを設ける。 なぜなら、本連載の第一回に紹介した<リンク>「経営の三角定理」<リンク>のバランスが崩れていると、業務要件が固まらないばかりか、プロジェクトのみならず企業経営すら危うくするからだ。
そこで今回は、戦略策定に更に踏み込んだ要件確定方法を紹介する。 経営企画部門を凌駕するIT部門には、ぜひとも盗み取っていただきたい方法論だ。
マネジメントシステムとは?
戦略策定に踏み込んでITの要件を確定する場合、「経営の三角定理」の2辺である「戦略・目標」と「業務・IT」の関係づけが柱となる。 そこで、具体的な方法論に入る前に、まず「戦略・目標」と「業務・IT」の関係を解説しておこう。
多くの企業で「経営の三角定理」の2辺である「戦略・目標」と「業務・IT」が分断している場合が多くみられる。 特にトップダウンで戦略を下ろす会社で顕著だ。 そういった企業では、以下のような症状がよく見られる。
- 戦略を変えても現場業務は何も変わらない
- 組織を変えても器や上司が変わるだけで仕事は何も変わらない
- あれこれと施策を実施するが、それぞれがバラバラで全社的な成果につながらない
- 経営課題の解決が、「モグラたたき」になり、場あたり的な活動になる
こういった状況に陥る理由は、「戦略・目標」と「業務・IT」がつながっていないからである。 つまり、以下の図1に示すように、両社をつなぐ何かが足りないのだ。
図1の「戦略・目標」と「業務・IT」の溝をつなぐものが「マネジメントシステム」である。 ここで言うシステムとは、情報システムのことではなく、「仕組み」という意味である。
このマネジメントシステムを平たく言ってしまうと「経営管理の仕組み」ということになるが、よくある管理会計のことではない。 もちろん、管理会計は企業活動を管理するうえで重要な指標ではあるが、ここで言うマネジメントシステムとは、業務やIT、人、組織などの管理に至る、非財務指標を含んだ経営全体を管理する「仕組み」である。
マネジメントシステムの構造
では、マネジメントシステムとはどのような構造であるか具体的に説明しよう。
「戦略・目標」を「業務・IT」につなぐためには、全社レベルの戦略や目標を更に具体化して組織単位、チーム単位、個人単位へと分解して行く。 ここはいわゆる方針展開と同じである。 この際、施策やアクションと合わせて、どのような成果を達成するかという具体的な数値目標をセットにして、図2に示すように分解する。 なぜなら、「測定できないものは管理できない」と言われるように、数値目標がないとアクションの成果が測れないからだ。 これが十分にできていないと、前述のように戦略が変わっても業務は何も変わらず、漫然と同じことを繰り返すことになってしまう。
更に具体的な例を図3に示そう。 この図では、全社の戦略は「新規市場に参入」目標値は「売上高X%向上」としており、それを各部の施策と目標に分解している。 営業部はこれを受けて「マーケットシェアXX%アップ」という目標を設定し、更に3つのグループの施策と目標に分解している。 子である販売グループは「新規顧客の開拓」という施策と「売上高XX億円」という目標をかかげている。 そして、更にA君の目標、B君の目標へと続く。
逆に下から上にたどって行くと、A君とB君が目標を達成すれば、販売グループの目標が達成されることになる。 そして、カスタマーサービスグループ、マーケティンググループ、販売グループの3つのグループが目標を達成すれば、営業部の目標は達成される。 このように、子の全てが目標達成すれば、その親も目標達成するという構造になる。
つまり、それぞれの組織や個人は、上位の共通の目標を達成するため、協力して活動する必要があるのだ。 それぞれがバラバラに活動し、全社的な成果につながらないという会社は、このような構造に欠けているか、それがあっても機能していないためだ。
ここまでの内容で「なんだ、方針展開ならうちのクライアントは毎年やっているよ」というアーキテクトがいるだろう。 では、なぜそれがうまく機能しないのか、それは「経営の三角定理」のバランスが取れていないからだ。 「戦略・目標」と「業務・IT」の結びつけても、残る「人・組織」が置き去りになると、人員不足やスキル不足などを来してしまう。
マネジメントシステムとIT要件定義の関係
IT導入において、業務要件の確定が難航し、プロジェクトが泥沼化するという場合、マネジメントシステムが欠如しており、各業務プロセスの達成目標が明確になっていないことが多い。 このような状況を防ぐため、全社的な戦略・目標を各業務プロセスの施策や目標値に分解しながら、要件を固めて行くことが望まれる。 マネジメントシステムが欠如している会社においては、IT導入とマネジメントシステムの両方をセットで作り上げていかなければ、業務プロセスをいじり回しても良い結果を得ることはできないのだ。
経営的な成果に結びつくIT、投資対効果の高いITを導入するためには、このようなマネジメントシステムを設計するスキルが不可欠なのである。
ところで、経理部門や人事部門などの間接部門については、会社の戦略や目標値に直接関係がない。 つなり、全社の戦略や目標を分解したところで、彼らの施策や目標値は定義できないのである。そこで次回は「経営の三角定理」の残る1辺である「人・組織」についても触れながら、マネジメントシステムについて更に話を進めよう。






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