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東京電力/桝本晃章氏
“エネルギー競争時代”をITで勝ち抜く 2002/09/15

CIO Profile

桝本晃章氏
1938年5月12日生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、1962年東京電力入社。企画部、電気事業連合会事務局派遣、広報部などを経て、1995年に取締役、1999年に常務取締役に就任。2001年6月、取締役副社長システム企画部担当となり、現在に至る。電気事業連合会環境委員会委員長。
日本の経済活動の約4割をカバーする首都圏で、電力の供給を一手に担う東京電力。 近年の厳しい経済環境や電力自由化の動きなど、ビジネス環境の大きな変化に直面する同社は、ITを単に事業を“支える”手段から、そのあり方を“変革させる”強力な武器へと進化させつつある。 そんな東京電力のIT化への取り組みと電力事業の今後の展望について、システム企画部担当副社長として同社のIT戦略を統括する桝本晃章氏に話を聞いた。
CIO Magazine編集部=聞き手/文

「顧客データベース」を構築し事業の“大改革”に挑む

──顧客サービス分野での具体的な取り組みについて教えてください。
 まず、この6月末に、サービス向上と組織のスリム化を目指し、200の事業所を50弱に統合するという現場組織の大改編を実施しました。これまで事務所ごとに設置されていたカスタマー・センターを一元化するなど、顧客情報をより効果的に管理するための体制を整えました。

 そのうえで現在、創立以来の最大のITプロジェクトである「顧客データベース」の構築を進めています。これは、電気の使用量や配線の状況、当社へのコンタクト履歴といったあらゆる顧客情報をデータベースで管理することにより、お客様との関係を強化し、需要中心型から顧客中心型にビジネスの転換を図ろうという試みです。すでに2年ほど前からお客様の声の収集、分析、活用に着手しています。

 こうした取り組みは、長く地域独占のビジネスを続けてきた電力会社にとって、事業のあり方、特に営業のあり方を根底から変革する大改革となります。そのため、システムの構築と並行して、顧客サービスに対する社員の意識改革にも継続的に取り組んでいるところです。
──電力会社として提供する新たな顧客サービスとは、どのようなものですか。
 10年ほど前までは、安定した高品質の電気を家庭や事務所の「入り口」まで届けることが良いサービスであるというのが我々の“常識”でした。しかし、今や、それだけではお客様に満足していただけないことは明らかです。

 現時点で構想している新しいサービスの方向性は、入り口までではなく、より深くお客様にかかわろうというものです。そもそもお客様は、電気という商品が欲しいわけではなく、工場で設備を稼働させたり、家庭で洗濯機やエアコンを使ったりするといった「機能」が欲しいわけです。電気が利用されている現場にまで踏み込むことによって、より質の高いサービスを提供することができるのではないかと考えています。

 例えば、一般家庭の場合は、営業スタッフが電気配線工事や電化製品の修理まで手がけたり、LANを敷いて家電製品をコントロールする仕組みを提供したり、家屋の機密性やエネルギー効率を考慮して配線や通気口の位置をアドバイスしたりといったサポートを想定することができます。さらに、法人の場合であれば、エネルギーの効率的な利用という観点から、工場の建設からオペレーションに至る工程にまでかかわることも可能になります。そのためには、まず必要なノウハウを十分に蓄積する必要があるわけです。

エネルギー・ビジネスのトップ・ランナーを目指す

──電力業界の構造改革などにも、ITは寄与しているのでしょうか。
 電力自由化にも関連する取り組みとして、現在、電力事業の資産や業務を適切に分類し、切り分ける作業を業界全体で進めています。電気事業は「発電」「ネットワーク」「小売り」の3分野に区分することができますが、ITを活用してそれぞれの業務を区分ごとにきちんと切り分けようというわけです。

 業務ごとにコストを把握することができなければ、電力業界以外の企業との協業や、公正な競争が難しくなります。例えば、ある企業が当社のネットワークを利用して電気事業に参入しようという場合などに、我々として、設備使用費用の妥当性について説明責任を果たさなければなりません。もともと電気事業会計は、設備別になっているなど、ある程度区分経理が進んでいるのですが、今後の競争化対象の拡大状況によっては、より論理的かつ精密な業務区分が必要になってきます。この取り組みにおいては、間違いなくITが大きな力を発揮することになるでしょう。
──IT化を進めるにあたっての課題は何だとお考えですか。
 業務をIT化する際には、業務の標準化と問題意識の明確化という2点が重要な課題になると思います。

 まず、業務の標準化については、現状ではそれぞれの現場ごとに「自分たちの仕事は特別仕様だ」という意識が強く、それが業務を共通のプロセスとしてIT化するうえで最大のネックになっています。当社では今、経営管理の視点から各業務で重要な要素を明確にするための指標作りに取り組んでいるところです。

 もう1つの課題は、業務部門側に「自分たちの仕事を変えよう」「生産性を上げよう」「サービスを向上させよう」という強い意志をいかに持ってもらうかというものです。そのうえで業務部門とIT部門がそうした問題意識を共有することができて初めて、ITをビジネスに生かすことができるわけです。しかし、両者の意識の隔たりはまだ十分に縮まっているとは言えません。その橋渡し役を務めるのが、CIOである私の重要な役割の1つであると考えています。
──これからのIT戦略の方向性と、電気事業の展望についてお聞かせください。
 我々にとって、ITはあくまでも手段であり、目的ではありません。当社にとってITは、貴重なエネルギー資源の効率利用に向け、お客様の多様なニーズにこたえていくための手段というわけです。

 現代社会は、あらゆるエネルギーが最終的に電気のかたちで消費されるという「電化社会」です。近い将来に、ガスや石油、通信、鉄鋼といった異業種企業の参入が本格化することになるでしょう。

 このような状況の下で、これまで長期にわたって電気事業に携わってきた我々に求められるのは、電力の専門家として、電気使用の現場にまで踏み込んだ包括的なサービスを提供することです。そこでは「省エネ」も、より本格的なサービスの構成要素になってくるはずです。

 明確なビジョンの下で、ITを最大限に活用することにより、エネルギー・ビジネスのトップ・ランナーとして、“エネルギー競争時代”を生き抜いていきたいと考えています。

規制緩和の嵐の中生き残りをかけた改革を

東京電力の副社長としてシステム企画部を統括する桝本晃章氏は、「電力自由化で電気事業が競争の時代に入った今、生き残るためには、ITを活用してサービスの向上や業務プロセス改革を行うことが不可欠だ」と語る。(photo by Keiji Kaneda)

──電力ビジネスが一部自由化されるなど、電力業界は今、大きな転換期を迎えていますが、そんな中で御社のIT戦略はどのような方向に向かっているのでしょうか。
 まず、この6月末に、サービス向上と組織のスリム化を目指し、200の事業所を50弱に統合するという現場組織の大改編を実施しました。これまで事務所ごとに設置されていたカスタマー・センターを一元化するなど、顧客情報をより効果的に管理するための体制を整えました。

 そのうえで現在、創立以来の最大のITプロジェクトである「顧客データベース」の構築を進めています。これは、電気の使用量や配線の状況、当社へのコンタクト履歴といったあらゆる顧客情報をデータベースで管理することにより、お客様との関係を強化し、需要中心型から顧客中心型にビジネスの転換を図ろうという試みです。すでに2年ほど前からお客様の声の収集、分析、活用に着手しています。

 こうした取り組みは、長く地域独占のビジネスを続けてきた電力会社にとって、事業のあり方、特に営業のあり方を根底から変革する大改革となります。そのため、システムの構築と並行して、顧客サービスに対する社員の意識改革にも継続的に取り組んでいるところです。
──電気事業そのものを支援するという点では、ITはどのような役割を果たしてきたのでしょうか。
 そもそも電気事業はきわめて“原始的”なネットワーク・ビジネスです。電力の供給は、全国各地の発電所と消費者とを巨大なネットワークで結ぶことによって初めて可能となります。しかも電気はためておくことのできない「生産即消費」型の“商品”ですから、消費量の変動に応じて生産量を絶えず変化させ続ける必要があります。そのため、電気事業のネットワークには文字どおり24時間365日の連続稼働が求められるわけです。

 言うまでもなく、電力は社会のライフライン・インフラであり、我々は停電や電圧/周波数の変動のない安定した高品質の電気を可能なかぎり供給し続けなければならないという使命を帯びています。したがって、電力供給ネットワークのバックグラウンドには、IT、つまり有線/無線の通信ネットワークと情報システムのサポートが絶対的に必要なわけです。これが、40年以上の歴史を持つ電力システムの最大のポイントです。
──ITの活用によって、どのようなメリットが得られるのですか。
 全国の発電所を最大限効率的に稼働させ、常に必要十分な電力を供給するためには、電力を供給するネットワークを一元的に管理する必要があります。そこで、ITが大きな役割を果たすことになります。昔は専門家がそれぞれの発電所の特性をすべて把握して管理していたわけですが、1950年代以降はそうした役割をすべてコンピュータが担っています。

 さらに、近年はこうした効率化を電気料金に反映させていこうという意識も高まってきました。当社では今年4月から電気料金を7%下げたのをはじめ、最近5年間で約2割の値下げを実施しており、今後も事業コストの低減と料金の低廉化に積極的に取り組んでいくつもりです。
(CIO Magazine 2002年10月号に掲載)
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