ベストプラクティスなシステムを活用した競争力のある銀行を目指して――スピードの時代に求められる金融ビジネスとIT
2011/11/28吉本和彦(よしもとかずひこ)氏
1970年に富士銀行入行。1998年にシステム開発第一部長、2000年に執行役員(IT担当)、2002年にみずほ銀行の常務執行役員を歴任。2004年6月には富士総合研究所 取締役副社長、同年10月にみずほ情報総研 専務取締役。さらに、2006年4月より日本郵政公社 理事常務執行役員として民営化に向けた情報化を推進、そして2010年6月から現職であるフィデアホールディングス 取締役兼代表執行役副社長 CTOを務めている。
CIO Magazine編集部 ● text by CIO Magazine
新しいビジネスを開拓
――肩書きにCTOとありますが、IT部門を統括されていて、CIOではなくて、CTOとなっているのは、CIOという役職がインベストメント担当の方になっているからですか。

地方銀行のベスト・プラクティスを作ってやろうと思って取り組んでいます。クラウドには、1年契約ができるような柔軟さがあるからこそ、ベスト・プラクティスを常に維持できるのですよ。 photo:赤司 聡
確かにインベストメントの担当役員がCIOという肩書きになっています。ただ、なぜ私がCTOを名乗っているかというと、いわゆるチーフ・インフォメーション・オフィサーを意味するCIOよりも、技術で何ができるかを含め、伝統的なCIOの枠を超えるのがCTOだと思うからです。
これからはITを広い意味で使って、経営に貢献していかなければいけない。単なる情報処理だけでなく、技術を使って収益を上げるビジネスをしていくという観点が必要です。その意味でCTOを名乗っています。
──“T”は単に技術というわけでもないわけですね。
楽天やアマゾンなど、いろいろなIT企業が次々と出てきています。そうした企業は、ITの技術というよりも、ITを使ったビジネスをしているわけです。要は、会社の情報システムを作っているレベルはCIOだろうと。ITを使って新しいビジネスを開拓していくことも含むのがCTOです。
──IT部門のほかには、どのような部門をご担当されているのですか。
現在、私が見ているのはIT部門、eビジネスを手掛けるeビジネスグループ、それから業務開発グループになります。
銀行の商品は、もはやIT抜きではありえないのですよ。だから、今までは業務分門や事業部門から「こういうシステムがほしい」という話がきて、IT部門やCIOが責任を持って開発するというケースが多かった。しかし、本来なら業務部門とIT企画部門を分けて考えるのはおかしい。ITの良さが分からないと業務ができません。
IT部門も同様で、言われたとおりに開発してという領域はITベンダーに任せればいい。今はスピードの時代ですから。クラウド化が進展しているのも、そういう背景があるからだと思います。
──日本郵政公社のCIOもされていましたが、そのときにセールスフォースを採用したことが話題となりました。海外にデータを置くのは、本当に大丈夫かと。あのときも、その考えがあったからですか。
日本郵政公社のときは、やむをえずです。というのは、郵政民営化法案が通ったときには、まだ郵便局会社は実在しなかった。郵便と郵貯と簡保はありましたが、郵便局会社という郵便ネットワークを使う販売会社は、これから造るということでした。
私は郵政のCIOをしていまして、新しくできる郵便局会社のシステムを民営化を進める2年間で作れないかという話があったわけです。ところが、準備会社はありましたが、当然ながらシステム部門はほとんどがSEがいない状況で、SE集めから始めました。
──大規模なシステム開発は、そもそも厳しい状況なわけですね。
ゼロから開発するのではなく、ITをサービスとして使おうと。電気や水道と同じように、ITもサービスとして使える時代がきていましたから。
先見の明があったと言われることもありますが、スピードを考えた場合、それしか選択肢がなかったというのが正直なところです。
セールスフォースには、できるだけ早く米国から日本国内にデータセンターを移すように要請していました。
──フィデアホールディングスに移られて、今はどうですか。システム部門はあると思うのですが。
私が富士銀行にいたころは、IT部門に行員だけで400人以上いました。メガバンクのIT部門には、自分でゼロからすべての情報システムを作る体力があるのです。
では、地方銀行はどうかと。
そこで、フィデアホールディングスができた背景についてお話をしたいと思うのですが、要は銀行が使う情報システムは、資産が1兆円だろうが、10兆円だろうが、大差ないということです。メガバンクは国際業務がありますが、それを除けば、メガバンクも地方銀行もやっている業務は一緒です。つまり、本気で競争力のあるベストプラクティスの情報システムを作ろうとすればメガバンクと同等の資金と人が必要になります。だからといって、地方銀行がメガバンクを縮小した形でやろうとしてもできない。
同様のことが、資金運用にも当てはまります。そこで、複数の地方銀行でITや資金運用を一緒にやれば、マスのボリューム効果が期待できるというわけです。
フィデアホールディングスは、山形県に本店がある荘内銀行と秋田県に本店がある北都銀行を抱える銀行持ち株会社ですが、将来的には3つ、4つ、5つと増やしていきたいという方針なわけです。2つよりも5つの銀行でシステムを共有して使ったら、はるかに効率的ですから。資金運用だって、あくまでも地方銀行ですから大きなリスクは取れませんが、規模が大きくなる分、取りやすいリスクもあります。
──銀行自体は統合されないんですか。
合併する必要がないのです。メガバンクであれば支店が重なっていたりしますから、合併には意味があります。地方銀行の場合は、県が違ったら支店はほとんど重なりません。だから、荘内銀行と北都銀行で支店を奪い合う必要もない。それよりも、営業エリアとなっているその地域で長年培ってきたブランドを残すほうがずっとメリットが大きいのです。そのため、合併するのではなく、あくまでもITや資金運用などを共通インフラ化することによって、効率的な経営を実現するというのがフィデアホールディングス設立のコンセプトです。
クラウドはすべて1年契約
──荘内銀行と北都銀行の両方のIT部門を見るとなると、IT共有化が難しくないのですか。それぞれの銀行で入れたい機能というか、こだわりみたいのがあって、ITの統合が難しい部分もあるかと思いますが。
ITインフラを共通化するというのは、並大抵の努力ではできません。両方の銀行とも、システム部門に行って話し合い、業務部門でも、営業部門でも同じことをして、進めていかなければいけない。ただしそれも、最終的には両方の銀行のためです。データセンターを含め、IT環境を共有化することにより、コストを半分近くまで落とせますから。
地方銀行の業務は95%同じですし、情報システムに必要とされる機能も95%は同じです。事務が一緒なら、監査も一緒にできる。その点でも同じシステムにしておく必要はあります。
地方銀行の規模でも、全部で100くらいのシステムを持っています。そのうちの90は小さなシステムなのですが、まずはそうしたところからアウトソースして、できるだけクラウドのような形態で共有化していきます。
――CTOという立場があっても、両行を説得するのは大変なんですね。
郵政公社の改革もそうでしたが、こうすればいいと分かっていても、共有化の結論を出すまで現場で納得してもらえるように進める。そこは長年の会社を経営してきたコツみたいなのが生きていますね。ただ、なかなかうまくいかないことも多いですよ。

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