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INTERVIEW

RFID導入の“真の成功者”

マーク・ジャミソン氏/キンバリー・クラーク 顧客サプライチェーン管理担当副社長

2009/04/23

キンバリー・クラークという社名はだれもが知っているわけではないが、KleenexやScott、Huggies、Pull-Upsなどといったブランドは、米国人に限らず、さまざまな国の人々にとっておなじみのものであるはずだ。実際、キンバリー・クラークによると、毎日13億人の人々が同社の製品を使っており、2007年度の同社の売上高は182億6,600万ドルに上っているという。このことでも分かるように、和やかな家庭をイメージさせるブランドの背後には、136年の歴史を持ち、世界37カ国で事業を展開している巨大企業が君臨し、150カ国における販売業務を支援する国際的なサプライチェーンが威力を振るっているのである。ウォルマートの有力な取引業者の1つでもあるキンバリー・クラークは、ウォルマートが納入業者にRFIDの採用を義務づけようとしたとき、いち早くその“RFID革命”の波に乗り、同技術の熱心な支持者となった。本稿では、キンバリー・クラークの顧客サプライチェーン管理担当副社長、マーク・ジャミソン氏に、RFIDの役割やRFID技術を活用する方法などを中心に、同社のサプライチェーン戦略について語っていただいた。

トーマス・ウェイルガム ●interview&text by Thomas Wailgum

 

サプライチェーンをリアルタイムで回す

photo by Tim Evans

──まずは、キンバリー・クラークのサプライチェーン管理戦略の骨子からおうかがいしたい。
 我々の目標は、サプライチェーンの能力を向上させることが可能な、デマンド・ドリブンのサプライ・ネットワークを実現することにある。このビジョンを達成するうえでは、エンド・ツー・エンドの可視性と可能なかぎりリアルタイムに近い情報を提供する高度に統合化されたサプライチェーン・システムのスイートをいかに実現するかがカギとなる。 

 今からおよそ5年前、我々は、サプライチェーンのビジネス・プロセスを再設計し、それを各種のシステムと統合する作業に着手した。その際、まず最初に再設計したのは、需要予測から在庫管理までのビジネス・プロセスだった。そのためのソリューションとして、SAPのAPO(Advanced Planner and Optimizer)を選定し、2006年の第4四半期までに導入を終えた。 

 次に取り組んだのは、受注から売上回収までのビジネス・プロセスで、このシステムでもSAPのソリューションを採用した。なお、このビジネス・プロセスに対応する新たなシステムを導入する際には、各種システムの統合スイートを採用することになっており、すべてのユーザーが、可能なかぎりリアルタイムに近い状態で得られた同じ情報を利用できるようになるはずだ。 

 そのほか、サプライチェーンやカテゴリー管理、消費者動向分析などに対応したビジネス・プロセスで、川下データをさらに有効活用できるようにするための戦略も策定しているところだ。 

──他のエンタープライズ・システムとサプライチェーンの統合は、サプライチェーン管理(SCM)システムを有効に活用するうえでの究極の目標であるとも言えるが、貴社のSCM戦略では、統合にどの程度の比重をかけているのか。
 SCMと各種システムの統合は、確かにきわめて重要な課題だが、我々にとっては、課題は決してそれだけではない。 

 これまで当社のビジネス・プロセスを管理していたのは、さまざまなシステムのいわば「パッチ・キルト」のようなものであり、サプライチェーンのさまざまな場所で頻繁に情報の受け渡しを行っていた。各部署で使用する情報は統一されておらず、しかもリアルタイム性に欠けていた。サプライチェーンの中では、予測不能の事態がしばしば発生し、ばらつきや無駄も多かった。高レベルの統合が最終段階を迎えれば、サプライチェーンの振幅が小さくなり、ばらつきも収まって、無駄もなくすことができると確信している。

──プロセスの内側にいない役員たちにとって、サプライチェーンの管理は、どの程度重要なのか。また役員たちは、サプライチェーンについて理解する必要性をどの程度感じているのか。
 サプライチェーン自体がさまざまな点から見て重要な課題であることは間違いない。しかしながら、共通の目標に向けて社内顧客と協力し合いながら作業を進めることも、それと同じくらい大切なことだ。(社内顧客であるビジネス部門や役員に対して)小売在庫の管理や定時の商品配達などに対応することが可能な高レベルのサービスを、コスト効率に優れた方法で提供する能力を備えたサプライチェーンは、競争を勝ち抜くための大きな武器であり、ビジネスの拡大にも貢献することを伝えていく必要がある。 
──先ほどリアルタイム・データについて言及されたが、リアルタイム・データに頼りすぎると、サプライチェーンの情報がすべて集まり切らないうちに早まった判断を下してしまうというおそれもあるのではないか。また、「リアルタイム・データ」という用語の定義も、企業によってかなり異なっていそうだ。キンバリー・クラークではリアルタイム・データの意味をどのように定義しているのか。
 リアルタイム・データを見れば、市場で今何が起きているかを瞬時に把握することができるうえ、製造工程にある製品の状況や販売促進活動の現状などをタイムリーにつかみ取ることができる。また、サプライチェーンの観点から見ても、コスト効率に優れたやり方でさまざまな事態に対処することができるうえ、在庫のレベルを高め、店舗の陳列棚に当社の商品がいつも必ず並んでいるという状況を保つことが可能になるという利点がある。 

 もっとも、我々も、1時間ごとに更新されるようなリアルタイム・データまで必要としているわけではない。しかしながら、8時間から16時間ごとに新しい情報を入手することが可能になれば、市場の状況をタイムリーに把握できるようになるのは確かなのだ。

──以前、某社のサプライチェーン担当役員に、従来から欲しがっていたリアルタイム・データを手にした瞬間に、同社のサプライチェーン・ユーザーに生じた、いわゆる「アハ体験」の話を聞いたことがある。キンバリー・クラークでは、そういった事例が報告されたことはないのか。
 SAPのAPOを導入したときに、それと似たようなことがあった。先ほど言ったように、受注から売上回収までのビジネス・プロセスが完全に刷新されるまでは、統合化のメリットを本格的に享受するのは難しい。しかしながら、APOを導入したことによって需要情報がリアルタイムで得られるようになったため、製造計画立案担当者の販促業務支援能力が即座に向上し(アハ体験を得)たのだ。 

RFIDの成功事例を広く社会に示していく

──キンバリー・クラークはこれまで、RFIDの導入で主導的な役割を果たしてきた。読者のために、RFIDの現在の利用状況と今後の導入計画をお聞かせ願えないか。
 まず強調しておきたいのは、当社のRFID戦略はビジネス・プロセスに主眼を置いており、この技術でなければ実現できないような高い信頼性と拡張性を備えたビジネス・プロセスの開発に力を入れてきたという事実だ。なぜこの点を強調したかと言えば、それは現在もなお、RFIDの価値についてさまざまな意見があるからだ。しかしながら、他社の事例を詳しく見てみると、『スラップ・アンド・スリップ(パッケージにRFIDタグを貼って出荷するだけ)』モードでやっているために十分な成果を得られていないというケースが少なくないように思われる。 

 RFIDだけでは、サプライチェーンに何の価値ももたらさない。ビジネス・プロセスのリエンジニアリングを実施し、この技術を生かせるような新しいビジネス・プロセスを整備しなければ、RFIDを導入する意味はないのだ。 

──貴社では、具体的に、RFIDをどのような場所で使っておられるのか。
 繰り返しになるが、我々は、ビジネス・プロセスを再設計することと、RFID技術を使ってそのプロセスを支援する方法を見いだすことに主眼を置いている。その流れからすると、RFIDの典型的な使用例としては、販売促進業務分野のプロジェクトを挙げるのが適切だろう。 

 かつて当社では、販促活動を実施する日や広告を打つ日に合わせて販促用ディスプレイを店舗のフロアに設置することができたケースが、やっと全体の半数を超えるぐらい(55%)しかなかった。そんなことでは、当社も、パートナーである小売店も、せっかくの商品を手にとってもらうチャンスを逃してしまう。 

 そこで我々は、店舗のフロアに販促用ディスプレイを設置する作業を追跡するためのプロセスを再設計することにした。また、リアルタイム・データに基づく日報を作成するようにし、小売業務担当者をこのプロセスに加えることで、まだ販促活動を実行していない店舗を日次ベースで特定できるようにした。そうして、こうした店舗を見つけ次第、小売業務担当者がその店に急行し、ディスプレイと商品をフロアに並べることにするというプロセスを確立したのだ。 

 RFID技術によって実現可能になったこの新しいプロセスを導入するやいなや、販促ディスプレイ作業の実施率が55%から75%に急上昇し、それに伴って製品の販売数(額)も伸びた。販促活動の実施率が向上するのに比例して、売上げも増加したわけだ。これなどは、RFIDをビジネス・プロセスの再設計に寄与させることで、サプライチェーン自体にも大きなメリットがもたらされるということを示す好例だと言えるだろう。 

──RFIDが特定の製品にとって有効だとすれば、それはどのような製品か。
 我々がRFIDがらみで特に力を入れているのは、Dependブランドのヘルスケア製品(成人用おむつなど)だ。というのも、当社は、多くの消費者が社会保障小切手を受け取る毎月1日に合わせてこの製品の販促活動を展開しており、消費者のほうも、買い物に出かけるときには確実に商品を入手したいと考えているからだ。 
──RFIDの有用性を広くアピールするためには、そうしたRFIDの成果(成功事例)がもっとたくさん世間に紹介されるべきなのではないのか。
 そうだと思うし、我々がRFIDの成功例をオープンにしたいと考える理由も、実はそこにある。というのも、我々は、RFIDを生かすためには、この技術を広く普及させる必要があると信じているからだ。 
──RFIDタグやRFIDリーダの読取率については、以前から不満を訴える声も聞かれる。実際、液体や金属を含む製品などでは、きちんと機能しないこともあるようだ。キンバリー・クラークでは、現時点で、読み取り精度などには満足しているのか。
 当社が取り扱っている商品は、かさばる紙製品が大半であり、RFIDとの相性はかなり良い。読取率は95%を超えており、技術の精度には満足している。だが、市場には、この技術ではうまく対応できなかったり、相性が悪かったりする製品も確かに存在する(金属やガラス、液体の入った製品など)。私はこの分野にはあまり詳しくないので、これ以上のことは言えない。 
──技術的な課題としては、RFIDから得られるデータを企業のバックエンド・システムにどうやって統合するかという問題も残されているが、すでに、統合に必要なソフトウェア製品は十分出そろっていると思うか。
 十分だと思う。ちなみに、先ほど紹介した販売促進業務の件では、オート・システムズというソフトウェア・プロバイダーの力を借りた。同社が、すぐに行動を起こすことが可能な、精度の高い情報を入手できるようにしてくれたので、データ・マイニング作業の負担を大幅に軽減することができた。また、商品補充業務は、トゥルーデマンドに委託しており、そのおかげで現在は品切れの心配もない。 

次の課題は、RFIDによるトレーラーの管理

──RFIDには、1人の担当者(あるいは1つのグループ)が導入作業全体を統括するのが難しいという問題もある。その原因は、RFIDプログラムがきわめて多くの業務(サプライチェーン、IT、マーケティング、会計など)にまたがっているというところにあるわけだが、この問題にはどう対処しているのか。
 当社には、RFID機能の開発を担当するチームが2つある。1つは、タグの性能とかリーダの読取率とかいったような技術(ハード)面の機能を担当するチームで、プロセスや技術開発を担当している組織の傘下にある。もう1つは、RFIDを活用した分析作業とビジネス・プロセスの強化を担当するチームで、こちらは現場の業務と密接にかかわるため、社内顧客の協力を仰ぎながら各種の機能を開発している。 
──これまで、社内から、RFIDへの投資に対して反対の声が出たことはないのか。
 我々は、ビジネス上の問題を解決すること、ならびに現実的な成果を得ることに力を注いでおり、RFIDプログラムからきちんと利益を引き出すことに努めてきた。そしてその結果、実際に成功を収めてきた(だから、投資に反対する声が出たことはない)。 
──将来的に何か新たなRFIDの用途を検討していないのか。
 現在、トレーラー管理プロジェクトを実験的に進めているところだ。当社の大規模流通センターには、500~700台のトレーラーが駐車しているが、これらのトレーラーの所在地と識別情報を追跡できるプロセスを導入することになる。具体的には、流通センターに到着したトレーラーにRFIDタグを付けることで、情報の精度を向上させ、駐車中のトレーラーを追跡するのに要する時間を短縮することができると考えている。 

 一方、サプライチェーン関係では、製造環境にRFIDを導入することで、原材料を追跡可能にするといったことも考えている。

(CIO Magazine 2008年11月号に掲載)

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