CIOは、経営者・ユーザー・開発者の間に立つコーディネーターたれ
2009/09/28志賀典人(しが のりひと)氏
1973年日本交通公社に入社(現ジェイティービー)。2000年に市場開発部長に就任し、インターネット販売などのWebビジネスを指揮。その後、取締役経営企画部長や取締役総合企画部長を歴任し、2005年にCIOとして常務取締役総合企画部長に就任。2009年より現職。
「総合旅行産業」から「交流文化産業」への飛躍──このような企業理念を掲げ、事業領域のさらなる拡大を指向するジェイティービー(JTB)は、現在、時代とともに移ろいやすい顧客の消費行動を的確にとらえるための次世代ITシステムを構築すべく、「長期IT戦略プロジェクト」の基本計画をまとめているところだ。そんな同社で、CIOとしてグループ全体のIT戦略を統括しているのが、常務取締役の志賀典人氏である。ここでは、JTBの次世代IT戦略や同氏の理念、そして人物像に迫る。
山上朝之●CIO Magazine編集部 text by Tomoyuki Yamagami
業務畑出身のCIOとして、JTBグループ全体のIT戦略の舵を取る志賀典人氏は、「経営者とユーザー、そして開発者という3者3様の意見をコーディネートするのが、CIOとしての最大のミッションだ」と力説する photo by Keiji Kaneda
「経営とITの橋渡し役」という重大な使命を帯びるCIOには、技術だけでなく、経営に関する深い理解も求められる。それゆえ、業務部門で長くキャリアを積んでいる方や、IT部門と業務部門の両方を経験している方が、CIOに就任するケースは少なくない。ジェイティービー(JTB)で常務取締役 経営企画担当・事業創造担当・IT企画担当を務める志賀典人氏は、まさにそうした業務部門出身のCIOである。
IT部門での直接的な実務経験はないものの、2000年から市場開発担当としてWebビジネスの陣頭指揮を執り、インターネット販売の仕組み作りに奔走した志賀氏は、業務部門からは見えにくいシステム開発の“裏側”を見聞きする機会が多く、CIOに就任する以前からIT投資に対する問題意識を募らせていた。その後、経営企画担当に就任した同氏は、当時の代表取締役社長であった佐々木隆氏(現代表取締役会長)とIT投資について頻繁に話し合うようになった。そうした中で、業務部門とIT部門のコミュニケーション・ギャップが原因となってシステム開発費が増大しているという現状に対し、両氏の間で共通の問題意識が確認されたという。両氏は、そうした状況を打開するためには、ITと経営企画の両部門を1人の人物が担当するべきだという点で見解が一致。そこで、経営トップの“想い”を背負うかたちで、志賀氏は、2005年にJTBグループのCIOとして就任したのである。
今回は、CIOに就任後、業務部門出身者ならではの視点で矢継ぎ早にIT施策を実行してきた志賀氏に、これまでの取り組みと今後のビジョンについて語っていただいた。
──旅行業界の昨今の状況をどのようにとらえていますか。
昨秋から続くリセッションや今年になって流行している新型インフルエンザの影響などで、旅行業界は現在、厳しい状況に置かれています。ただし、旅行業界のこれまでの変遷を考え合わせると、このように社会情勢が大きく動いた後には、それまで潜在化していた顧客のニーズが顕在化してくる傾向が強いです。例えば、バブル崩壊後には、団体旅行から個人旅行へとニーズがシフトしましたし、2002年に中国で大流行したSARS(重症急性呼吸器症候群)の後には、顧客の生活の中にITが浸透していくとともに、旅行業界でもITを積極的に活用していこうという機運が高まりました。
こうした傾向を踏まえて、当社としては、今の厳しい状況を乗り越えた後に顕在化してくるであろう、顧客の新しい消費行動を的確にとらえるための経営戦略を実行していく必要があります。そのため、当社は現在、リアル店舗のネットワーク網やインターネット販売、コールセンターなどの顧客アプローチ手段を組み合わせた「クロス・チャネル戦略」を推進しています。
──それを実行するうえで、カギを握るのがITシステムというわけですね。
その通りです。例えば、これまでであれば、店舗に訪れた顧客やWebサイトからアクセスしてきた顧客などの情報は、それぞれ別のデータベースに格納されており、運用の仕方もまちまちでした。そのため、どういった経路でアクセスして来ても顧客の履歴や傾向がつかめるように、顧客データベースの統合などを進めることが必要になっています。
──今年4月にはレガシー・システムからオープン系システムへの完全移行を果たしていますが、これも顧客の消費行動をとらえるためのIT施策の一環になるのでしょうか。
もちろんそうです。レガシー・システムは、これまでロジックを積み重ねて作られてきた結果、古い建て増し旅館のようにつぎはぎだらけのシステムになっていました。販売方法や仕入れ方法、業務フローなどが急激に変化している昨今において、柔軟性や拡張性を欠いたつぎはぎだらけのシステムでは、ビジネスが行き詰まることが目に見えています。そこで、2004年からオープン系への移行を進めていたのです。
──オープン系に完全移行してから半年ほど経過しましたが、運用上のトラブルなどは経験されましたか。
オープン系に起因するようなトラブルは、今のところ起こっていません。当初は、オープン系であるがゆえに信頼性に若干の不安を抱いていましたが、今では、その点に関して自信が持てるようになっています。
もっとも、オープン系を運用するうえでの難しさも感じています。それというのも、レガシーでは、しっかりとシステムを作り込んでいたので、トラブルが発生した際には、その原因を担当者が経験則的にすぐにつかむことができました。しかし、オープン系では、ミドルウェアまではベンダーが管理していてユーザーからは見えにくいですし、当社の中でノウハウも十分に蓄積されていないため、トラブルの原因究明にこれまでよりも時間がかかってしまっています。こうした状況を改善するためにも、これからはベンダーといっそう緊密に連携していく必要があるでしょう。
──そうなると、今後、御社のIT戦略にとって、「ベンダー・マネジメント」がキーワードの1つになると言えそうですね。
はい。当社では現在、「長期IT戦略プロジェクト」と呼ぶ次世代ITシステムに関する基本計画を策定中ですが、このプロジェクトには、コンセプトの段階からベンダー各社に参加してもらい、情報を交換したり新たな提案をしてもらったりしています。
「このベンダーなら大丈夫」と言い切ることは難しいですが、プロジェクトの初期段階から参加してもらうなど可能なかぎりコミュニケーションを図ることで、ベンダーとの確固たる信頼関係を醸成していきたいです。

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