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INTERVIEW

DIC/斎藤雅之氏

グローバルに思考し、ローカルに行動する――コスト削減とグローバル標準化を推し進め、経営スピードの向上に取り組むDIC

2011/03/28

CIO Profile

斎藤雅之(さいとう まさゆき)氏

1954年生まれ。慶應義塾大学商学部卒業後、1977年4月に大日本インキ化学工業(現・DIC)入社。香港大日本インキ化学工業、DIC Trading (USA)への出向を経て、海外管理部長、経営企画部長、財務部長を歴任し、2008年4月に執行役員 経理部、財務部、情報システム部担当就任。2010年6月から現職(2011年4月から取締役常務執行役員 財務経理部門担当に就任予定)。

印刷インキや合成樹脂の世界トップメーカーとして、100年を超える歴史を有するDICは、M&Aによる積極的な海外展開により、グローバル・カンパニーとしての地位を確立している。そんな同社も、グローバル経済の変化を受け、さらなる経営の効率化を推し進めている。そこで取り組まれている、間接部門の大幅なコスト削減や業務プロセスのグローバル標準化といったプロジェクトの先頭に立っているのが、同社の取締役執行役員でCFOを務めつつIT部門を統轄する斎藤雅之氏だ。

小池晃臣

 

財務とITの両視点から間接部門のコスト4割減を目指す

DIC 取締役執行役員 財務経理部門担当 斎藤雅之氏 photo:金田啓司

──まず初めに、IT部門を統轄されるまでの御社での経歴を簡単にお聞かせください。
 私の場合、どちらかというと入社からこのかた海外畑を歩んできました。1987年から1997年にかけて香港と米国に継続して駐在し、現地でのオペレーションに携わりました。その後、国内で財務や経営企画の業務にかかわり、2004年にシンガポールの地域統轄セクションのトップとして赴任しました。その後、2007年に帰国し、以前に所属した財務部の責任者となり、1年後にCFO(最高財務責任者)として財務経理部門を管轄すると同時に、情報システム部も管掌することになりました。
──実質的にCIOとCFOを兼任しているわけですが、財務的な視点でITを統轄する意義が大きいからでしょうか。
 そのとおりです。米国に端を発する世界的な金融危機が生じた2009年度以降、当社の事業環境は大きく変わりました。2008年度と比べると売上高は15~20%減のレベルに落ち込みました。そうした状況の中で、収益をどうやって維持していくかが最重要課題だったのです。そこで、コスト削減という観点から業務部門を大幅に簡素化していこうという全社的な方針が決まったのですが、それを実務として推進するとなると、CIOとCFO両方の役割が必要になったわけです。
──具体的には、どのような施策を実施されているのですか。
 最も大きな取り組みとしては、昨年、国内を中心にスタートした、間接部門のコスト40%削減を目指すプロジェクトが挙げられます。もう1つの大きな軸となる施策は、次期基幹システムの導入・構築プロジェクトです。こちらは、昭和40年ごろから使用している基幹システムがかなり陳腐化しているため、それを刷新しようというものになります。
──間接費を40%も削減するとなると、かなりの大事業だと思いますが、どのようなコストを主に削ろうとしているのでしょうか。
 当社の場合、業務上冗長なプロセスが少なからず存在します。そのいちばんの原因として、本部と各事業部のそれぞれに間接部門が存在することが挙げられました。そこで、事業部のサイドのオペレーションを原則廃止して、必要のないものはばっさりと捨てるという姿勢を徹底しようということになりました。実際には、コストというよりも人的リソースを40%程度カットできないかというイメージで進めています。 

 2010年から2012年の期間を対象にした中期経営計画「DIC102」を目下推進中なのですが、間接費の4割削減と次期基幹システム構築の両プロジェクトともその中の主な施策として位置づけられています。

──前述の2つのプロジェクト以外に、現職就任後に手がけた施策などはありますか。
 そうですね、コスト削減をより経営の質と効率を高める施策になるのですが、経営ダッシュボードを順次導入しているところです。「MITAS(Management In Telligence Analysis System)」と名付けた経営情報システムを使って、マネジメント層にも経営情報を提供し、彼らにKPIに基づいた意思決定を行ってもらうのがねらいです。すでに経営層ではMITASの活用が定着しつつあります。
──KPIをそれだけ大々的に導入することになった理由はなんでしょうか。
 当社では、売上高重視の経営を続けてきた長い歴史がありまして、印刷インキと合成樹脂といった主力製品についても薄利多売となる傾向がありました。その後、経営を取り巻く環境の変化を受けて、売上高よりも利益率重視の経営方針への変革を打ち出したのです。例えば、営業利益率が10%に達する現実的シナリオが描けない事業の見直しなどを始めました。 

 こうした収益指向の経営に対する関心を高め、それを達成するための有効な手段として目をつけたのがKPI管理だったのです。

ITを管理する人間には“バランス”が大事

「IT戦略の中核を担う人間を育てるには、できれば経理や財務といった経営の根幹に携わった経験のある者を登用し、さまざまな業務をローテーションで経験させることが重要だと、最近強く感じています」(斎藤氏)

──現在、IT組織には何人ぐらいのスタッフがいますか。
 まず本社に情報システム部があり、今は5人のスタッフが在籍しています。そして、IT実務の運営子会社であるDICインフォメーションサービスの社員が80人弱、常勤外注スタッフも含めて約100人といったところです。
──情報システム部はまさに少数精鋭部隊ですね。そうしたスタッフの育成について特に心がけているようなことはありますか。
 経営システムを構成するITを管理する者は、経営面でのバランス感覚を持つ人間でなければならないというのが私の持論です。ですから、IT戦略の中核を担う人間を育てるには、できれば経理や財務といった経営の根幹に携わった経験のある者を登用し、さまざまな業務をローテーションで経験させることが重要だと、最近強く感じています。 

 また、これからの当社の組織は、グローバルにつくり上げていく必要があります。もちろん、IT部門も例外ではありません。そのような組織のヘッドクォーターは、日本人であることにこだわる必要はないと考えています。 

 ですから今後は、グループ子会社のITスタッフをグローバル・プロジェクトのメンバーとして登用するなど、能力のある人間は積極的に本社業務に携わるようにしていくつもりです。

──IT戦略を展開するうえで、社内でのIT部門の位置づけはどのようなものになっていますか。
 まず当社には、経営に直接かかわる管理部門として、経営戦略部門と総務法務部門、そして財務経理部門の3つの部門が存在します。財務経理部門を管掌する私を含めたそれぞれの部門のトップの役員がトライアングルとなってチームワークを発揮してこそ、グループ全体のシステムが真に構築できると思います。とりわけ経営戦略部門と財務経理部門が一体化してやっていかないことには、経営とITの統合など実現できませんから。
──他部門の現場スタッフとのかかわりの中で、特に重要だと感じていることはありますか。
 事業部門で業務プロセスを遂行する人たちに、導入プロジェクトを展開している次期基幹システムの必要性を理解してもらう試みを繰り返しやっていかなければと実感しています。システムの必要性が、コスト削減やIFRS(国際会計基準)への対応といったような外的な要因に起因しているので、彼らの協力を得るためにはそういった事情を丁寧に説明していかなければいけないと気を引締めている次第です。

ベンダーには提案力を期待

──ベンダーとの関係性で重視しているのはどのようなところでしょうか。
 現在、複数のベンダーと同時におつきあいしておりますが、そこでは常に相手の提案力の高さに注目しています。我々の現在のやり方に対して具体的なアドバイスをしてきてくれるようなベンダーと、お互いがWin-Winになれるような関係を築いていくことが重要だと考えています。 

 あとは、グローバルな知見を持ったベンダーかどうかにも重きを置いています。ただ、そういうベンダーは往々にしてコストが高いのが悩みどころではあるのですが(笑)。この点は、M&Aの際にお世話になる米国のファイナンシャル・アドバイザーと同じだなという印象を受けています。

──アウトソーシングについてポリシーのようなものはありますか。
 当たり前かもしれませんが、インソースするのか、アウトソースするのか、それともバランスを取って並行で行くのか、そのあたりの見極めが大事だと考えています。ビジネスにスピード感を出すために、社内のリソースにないものを使えるかどうかが基準になるのではないでしょうか。欧米の企業はそうした判断が非常に上手ですが、我々も彼らに負けないぐらいに、ローコストかつ的確に、プロフェッショナルとしてのベンダーを有効に活用していきたいですね。

グローバル標準化に待ったなし

──今後のIT戦略で、最優先で解決すべき課題は何だとお考えですか。
 月並みではありますが、業務プロセスのグローバル規模での標準化とそれを最新のICTテクノロジーで組みあげることが最重要課題だと認識しています。 

 当社では、長い間、経営体制として事業部独立採算制を採用してきたことから、事業部がオペレーション上、強い権限を持ち、それぞれ個別の業務プロセスを構築、システム化してきました。この結果、会社全体としてオペレーションの効率性追求という側面がないがしろにされてきました。 

 また、海外に目を移すと、当社は、過去に積極的なM&Aにより事業拡大を進めてきましたが、買収後、先に述べたような慣習から被買収会社の業務プロセスを尊重した子会社経営を行ってきたケースが多くありました。 

 全体最適、業務の標準化といった視点から、ファーストステップとして、現在、欧米市場を管掌する子会社サンケミカルでのSAP導入が最終段階に来ています。さらに、次のステップとして、日本、アジアにおけるSAP化を推進中で、グローバル・ベースでの業務プロセスの標準化、効率化、さらには、IT活用による積極的なマーケティング活動をグローバル・ベースで展開すべく推進中です。

──それはかなり大規模で大変なプロジェクトになりそうですが、そこまで踏み切ることになったきっかけは何なのでしょうか。
 確かに、非常に荷が重いテーマではあるのですが、その引き金の1つになったのは、先にも少し述べたIFRSへの対応をはじめとする世界規模での外的要請です。これからは、決算期の統一をはじめとして、さまざまな会計業務を同じルールに合わせなければいけないという流れにありますから、個別最適化ではすぐに限界にぶち当たってしまうのが目に見えています。

クラウドとモバイルに注目

──今、期待を寄せている新技術はありますか。
 やはり一番はクラウドでしょうか。ちょうど先日もあるベンダーさんに出向いて勉強会をしてきたのですが、このような技術をどうやって取り入れて行くかをこれからじっくりと考えなければならないでしょうね。 

 もう1つはコミュニケーション・ツール、とりわけiPhoneやiPadに代表されるようなモバイル・デバイスに注目しています。今は、それらを使ってどのようにビジネスを展開していくかを模索しているところです。 

 すでに、当社グループでは、iPhoneでインキの色見本を見せるソフトウェアの「DICデジタルカラーガイド」は開発していて、App Storeから無料でダウンロードできるようになっているんです。このようなことから徐々に活用の幅を拡げ、ソリューションビジネス的展開を進めることができればいいですね。

ローカルを大切にしながら、グローバルに舵を切る

──これまでのお話を伺う中で、“グローバル化”がこれからの御社のキーワードだと感じました。斎藤さんは海外の経験が豊富ですが、そうした経験が現在の業務に役立っているのではないですか。
 それは間違いないと思います。海外の事情というのは、見ると聞くとでは大違いで、実際に住んでみなければ本当のところは分からないものです。私自身、アジア諸国の工場はどのような生産システムを採用しているのか、米国の工場の労働者はどうやって働いているのか、といった事柄を生で見てきました。現地の人たちと直に触れながら、身を持って経験したことが、現在の私の大きな糧になっているのは確かです。逆に、もしもそうした経験がなかったら、現在抱えている課題をどうやって解決すればいいのか想像もつかなかったと思います。
──最重要課題として掲げられているグローバル標準の導入でも、各国それぞれの事情を考慮するのですか。
 はい、しますね。国ごとに文化が違いますから、何かを判断するための“ものさし”の尺度も違います。まず、相手のものさしを理解することが重要でしょう。あくまでそれを理解することができて初めて、共通する部分は何か、最大公約数となるのは何かという基準で測ることができるのだと思います。 

 どこまでをグローバル化すべきで、どこをローカルで残すのかといったように、グローバルとローカルの区分けといったところを、いかに低コストで決定できるかどうかが成功のカギではないかと思っています。あまりにもトップダウンで高圧的にグローバル化を推し進めたのでは、現地の反感を買って跳ね返されてしまうし、かといって、あまりに弱気にやったのでは、分散型の組織になってしまうでしょう。 

 中央集権の微妙なさじ加減を誤らないようにするためにも、各国の人たちについての理解が欠かせません。これこそまさに、ITスタッフに不可欠なバランス感覚ではないでしょうか。

(CIO Magazine 2011年4月号に掲載)

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