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プロジェクト・マネジメント

PPMを失敗に導く3つの通説

「こうすれば成功する」、「これを使えば間違いない」という甘い言葉にだまされるな!

2010/09/24

米国で実施された最近の調査によれば、ITプロジェクトの68%は失敗に終わっているという。そこで、プロジェクトの成功率を高めるものとして注目されているのが、プロジェクト・ポートフォリオ・マネジメント(PPM)である。ただし、PPMを導入するにあたっては、「3つのまちがった通説を訂正しておく必要がある」と、ITコンサルタント・サービスを提供する米国コラベラのアダム・ブックマン氏は指摘する。

アダム・ブックマン ● text by Adam Bookman

PPMの導入に失敗するのはなぜか?

 米国の調査会社スタンディッシュ・グループが発表したリポート『CHAOS Summary 2009』によると、企業におけるITプロジェクトの成功率は著しく低下しており、成功裏に終わったプロジェクトは全体の32%にすぎないという。つまり、ITプロジェクトの68%は失敗するというわけだ。だからと言って、自社のプロジェクトも同様に68%は失敗に終わり、残りの32%が成功するというわけではない。できることならば、すべてのプロジェクトをその32%の成功例に含めたい。

 そこで注目を集めているのが、プロジェクト・ポートフォリオ・マネジメント(PPM)だ。PPMとは、十分な情報に基づいて適切な意思決定を下し、限られたリソースを効率よく配分して、プロジェクトを成功に導く手段である。

 しかし、PPMに大きな期待を抱いて多額の投資を行っても、最終的には失望だけが残ったという事例も少なくない。筆者の経験によれば、PPMの導入が失敗する背景には、広く定着している“誤った”通説がある。本稿では、その3つの通説を紹介しよう。

【通説1】PPMを実施するのはIT部門である
 Fortune 500企業では、重要性の高い戦略的イニシアチブの半数から4分の3は、プロジェクトとして取り組まれていると言われる。ところが、その進捗状況や目標をCEOが正しく把握しないうちに進行し、課題解決にコミットできない場合が少なくない。というのも、プロジェクトがIT部門にいわば「アウトソーシング」されてしまっているからだ。プロジェクトにリソースを提供するのはIT部門であり、新しいテクノロジー・ツールを必要とするケースもあるため、それはやむを得ないことでもある。

 だが、PPMを実施するためには、IT部門が関知しない企業戦略上の知識も必要になってくる。例えば、「どのような実施中または実施予定のプロジェクトがあるか」、「それはいま実施すべきプロジェクトなのか?」、「各プロジェクトは戦略的イニシアチブとどのような関係にあるのか?」、「各プロジェクトの優先順位、予算、人員の割り当ては?」、「どの部門がプロジェクトの恩恵を受け、不利益を被るのか?」、「経営陣はどうやって各プロジェクトの進捗状況を把握するのか?」といったことだ。

 PPMとは、突き詰めて言えば、戦略の優先順位とガバナンスを全社規模で管理するための新たな仕組みのことを指す。決してテクノロジー・ソリューションではないのだ。PPMの導入を成功させるためには、経営陣から各事業部門にいたるまでが全社的に協力し、対象プロジェクトを遂行するすべての部門が参画する必要がある。その運用管理をIT部門にゆだねてしまうと、PPMが持つメリットを十分に享受できなくなるからだ。

【通説2】適切なツールを選べばPPMの導入は成功する
 新たなテクノロジーが次々と登場するITという分野に属していると、プロジェクトのたびに、「必要な機能をすべて備えた、用途にぴったりなアプリケーション」を求めてしまいがちだ。それは、PPMの導入に真剣に取り組もうと決断したときでも例外ではない。PPMで必要となるのは、数多くの情報ソースから大量のデータを定期的に取得し、それをリポートとしてまとめることだ。確かに、プロセスや文化に関する広範な問題に対処するよりも、賢いツールを導入したほうが作業としては簡単である。

 そのため、PPM導入の第一歩が、「その時点で最良のPPMツールを購入してインストールする」と、短絡化してしまうケースが往々にしてある。ところがこの場合、「PPMに必要なデータもなければ、データを取得するためのプロセスもない」、「ツールを利用するためにプロセスを変更しようとすると、社員の強い抵抗にあう」、「ツールによって過去のプロジェクトに関する情報を取得できても、進行中のプロジェクトの詳細を知ることはできない」という現実に直面することになる。そして結局、数々の重要なプロジェクトを管理する手間は以前とほとんど変わらない、という事実に気づかされるのである。

 PPMを適切に導入するには、まず自社におけるプロジェクト管理の成熟度と、その成熟度を高めるための意欲や能力を客観的に評価する必要がある。具体的には、「現時点での成熟度が1であるなら、成熟度4~5は現実的に達成可能かどうか。それを達成するためにどれくらいの時間がかかるか」、「必要な労力や費用の確保に経営幹部の協力が得られるか」、「全社的な協力体制ができているか」、「どのようにして成熟度を上げていくか」、「PPMの導入によって、絶対に実現しなければならないメリットとは何か」といったことを検討しなくてはならない。

 ツールの選択に取りかかるのは、これらの検討を済ませてからである。最良のツールとは、市場における評価とは関係なく、自社固有のニーズに最も合致するものであるからだ。

【通説3】導入当初からPPMのベスト・プラクティスに従うべき
 PPMにベスト・プラクティスというものが存在し、それに大きな価値があることはだれもが認めていることだ。しかし、ベスト・プラクティスの導入と同時にPPMを実施し始めると、失望への第一歩を踏み出してしまうことになる。ほとんどの場合、PPMのベスト・プラクティスを導入するためには、事前にそれ相応の準備が必要だからだ。

 例えば、PPMの成熟度が高い企業は、すべてのプロジェクトについて、それらが自社に与える影響を定期的に見直している。しかし、PPMを始めたばかりの企業の場合は、必要な情報を取得する最初の段階から成熟度の壁に悩まされることになる。必要な情報の例としては、「標準化されたプロジェクト定義」、「総合的なコストとメリットの概算」、「必要な人的リソースおよび非人的リソースの概算」、「利害関係者に与える影響」、「成功か否かを判断する測定可能な基準」、「投資対効果」、「社外への依存度」、「利害関係者の貢献」などが挙げられる。これらの情報がそろって初めて、ベスト・プラクティスの導入に着手できるようになるのだ。

 PPMのベスト・プラクティスはいくつかあるが、そのいずれにおいても、まずは現在の自社の成熟度レベルを把握する必要がある。この成熟度基準は、レベル1から5までの五段階評価で、レベル1が「場当たり的」、「事後対応的」、「定義されている」、「管理されている」、そしてレベル5は「最適化されている」として定義する。成熟度評価を総合的に行うことで、現在のレベルを明らかにし、次のレベルに到達する方法を判断するためのステップを設定できるようになる。

 ここまで来てようやく、PPMのベスト・プラクティスを導入できるようになるが、この段階に到達するのにさえ何カ月もかかかる可能性がある。PPMの成熟度を上げるプロセスは、一度きりのイベントではなく、継続的に続く旅のようなものなのだ。

PPMの導入に向けた5つのチェック項目

 PPMを導入し、意図どおりの成果を上げるためには、出発点として経営幹部ともに次の5つの項目をチェックすることをお勧めする。


(1)現在、組織として結論を出すのに苦労している重要な意思決定事項は何か
(2)日常的なアクセスを必要とする情報は何か
(3)プロジェクト・ポートフォリオに関して、入手が困難で迅速な意思決定の妨げとなっている情報は何か
(4)現在入手済みのプロジェクト最新情報で、未完のタスクやその理由を把握できているか
(5)目標とするPPMの成熟度を達成するため、新たに全社規模のプロセスを導入する必要がある場合、その作業に深く関与する意思はあるか

 景気が低迷し、国際競争が厳しさを増す中、プロジェクトの3分の1が失敗しているような企業は、とても生き残っていくことができない。ここで挙げた3つの通説にとらわれることなく導入を進めれば、成熟した正しいPPMに向かって歩を進めることができるはずだ。

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