メリットとデメリット、方向性の決め方を学ぶ
2012/02/08新しいアプリケーションの開発に際し、デスクトップ版を無視していきなりモバイル版から取りかかるIT部門が増えている。社外顧客向けのアプリケーションは特にその傾向が強いようだ。本稿では、モバイル・アプリケーションの開発戦略を立てるうえで知っておくべき留意点を解説する。
エリザベス・ホーウィット ● text by Elisabeth Horwitt
継続的な運用管理とインフラ整備が難しい

マーカス&ミリチャップのCIO、リチャード・ペルツ氏は、同社の不動産代理店1,200社を網羅したモバイル・アプリを急遽開発したが、長期的なモバイル・アプリ戦略の立案には今でも苦労させられているという。
モバイル・アプリケーションを成功させるには、タイミングが重要だ。それを示す例として、売上高135億ドルの商業用不動産投資サービス会社であるマーカス&ミリチャップでCIOを務めるリチャード・ペルツ氏のケースを紹介しよう。商業用不動産市場が2年ぶりに復調の兆しを見せた2010年1月、同社は全米1,200の代理店のためにブランド認知とブランド露出を高める方法を模索し始めた。そうした中でペルツ氏が思い付いたのが、同社のWebサイトに代理店とローン組成者の検索ページを用意して、顧客がiPhoneやAndroidスマートフォンからアクセスできるようにするというアイデアだった。
ペルツ氏は少なくとも1社のライバル企業がこれと同じようなアプリケーションを開発中であることを知り、いち早く市場投入する必要があると感じた。「運営委員会に任せている暇はなかった」と話す同氏は、マーケティング部門とアプリケーション開発担当副社長からアドバイスをもらいつつ、「自分が直接指揮することにした」という。また、部下のITスタッフにモバイル・プログラミング言語(特にiPhone向けの言語)を教育するよりも、開発をAT&Tにアウトソーシングする選択肢を選んだ。
「2010年12月に配備して以来、このアプリケーションを使う不動産投資家は増え続けており、いくつものアドバンテージを得られた」とペルツ氏は嬉しそうに語っている。だが、難しいのはここからだ。すなわち、モバイル・アプリケーションを長期にわたって開発/運用管理していくためのエンタープライズ戦略とインフラをいかにして設計・構築するかという課題に取り組まねばならないのである。
この悩みを抱えているのはマーカス&ミリチャップだけではない。ITリーダーにとって、“モバイル・ファースト”のアプリケーションは頭の痛い代物だ。多くのCIOはモバイルがもたらしてくれるであろう潜在的な恩恵を期待し、モバイル端末を持ち歩くエンドユーザーやエグゼクティブ、顧客向けに新しく魅力的なアプリケーションを提供しなければというプレッシャーを受けがちだ。今現在は、デスクトップ・アプリケーションの一部のバージョンをモバイル端末に移植するというやり方から、まず先にモバイル向けに開発するというやり方への「転換期にあり、実際そのほうが理にかなっている」と、調査会社ガートナーのリサーチ担当副社長、ウィリアム・クラーク氏は指摘した。
ガートナーが2010年6月に発行したリポート「Magic Quadrant for Mobile Consumer Application Platforms」(モバイル・コンシューマー向けアプリケーション・プラットフォームのマジック・クアドラント)によると、2010年には世界で50億台のスマートフォンが使われ、この数は2015年までに67億を超えると見込みであり、コンシューマー相手の企業にとって巨大なビジネス・チャンスになるという。同リポートはさらに、「2014年までの間、コンシューマー向けモバイル・アプリケーションがWebアプリケーションやその他のアプリケーション全般を上回るペースで開発されていくだろう」と予測している。ちなみに、CIO Magazine米国版が先ごろ261人のITリーダーを対象に実施した調査では、今後モバイル・アプリケーションへの投資を増やすと回答した割合が54%に上っていた。
一方、ガートナーのクラーク氏は、モバイルOSのリリース・サイクルとバージョンアップがあまりにも頻繁になり、モバイル市場に「断片化とカオス」を招いたことから、企業が一貫した戦略を策定し実行するのが難しくなった点にも注意を促している。「こうしたイニシアチブの成功には戦略が欠かせない」というのが、アナリストとCIOの一致した見方だ。
ここからは、モバイル・ファーストのアプリケーション開発の現状について、これらのアプリケーション開発を後押ししている要因は何か、それはIT部門にどういう課題とチャンスをもたらすのか、さらにはモバイル・ファーストの難しさを克服し、長期にわたってその可能性を引き出す戦略をどうやって立てるのかを概説していく。
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