【特別対談】日産自動車 CIO 行徳セルソ氏 × レッドハット 代表取締役社長 廣川裕司氏
2011/10/28日産自動車では、2005年に「BEST」と呼ばれるIT改革のプロジェクトを始動させて以来、ITプラットフォームの全社的な標準化と共通化を推し進めてきた。その取り組みを支えるソリューションの1つとして同社が選んだのがオープンソース技術をベースにしたレッドハッドのソフトウェアとサービスである。ここでは、BESTの取り組みを成功へと導き、現在も共通プラットフォームの高度化に取り組む日産自動車のCIO、行徳セルソ氏と、レッドハットの代表取締役社長、廣川裕司氏との対談を通じて、IT改革におけるCIOの果たすべき役割と、オープンソース活用のメリットを明らかにする。
ビジネスを先読みしたIT改革を
廣川氏:行徳さんは、自社のIT改革に長く取り組み、大きな成果を上げてこられました。その経験を経た今、CIOの果たすべき役割をどうとらえておられますか。
行徳氏:CIOの重要な役割は大きく4つあると考えています。1つはITの可視化です。とりわけ、ビジネスに対するITの貢献度や予算の使い方などは明確にしておかなければなりません。また、2つ目は、自社の事業をITでどう支えていくかについて、しっかりとした方針を持つことであり、3つ目は、技術の進化をタイムリーに取り込み、自社の利につなげていくことです。そして4つ目が人材の育成です。事業と業務に精通し、会社にとって付加価値の高いIT人材をどう育成していくかは、CIOにとって大きな課題と言えるのです。
廣川氏:やはり事業への貢献が重要なミッションであるということですね。私も、CIOやIT部門はITの運用管理を司るだけの存在ではもはやなく、事業戦略の策定/遂行において中心的な役割を果たさなければならないと強く感じています。ただし、そのためにはITの改革に積極的に取り組み、成功へと導いていかなければなりません。CIOはどのような姿勢でIT改革に臨むべきなのでしょうか。
行徳氏:大切なのは、自社の経営戦略を十分に理解し、会社の事業が今後どのように展開していくかを先読みしたうえで、IT改革を推し進めることです。ITの改革には一定の時間が必要ですから、ビジネス上の変化が起きてからITの改革に着手していたのでは到底間に合いません。その意味でも、IT改革に関する明確なビジョンを持ち、それに従って“とにかく動き始める”ことが何よりも重要だと考えています。
新技術への戦略投資は
事業投資と位置づける
廣川氏:ビジネスを先読みして新技術に投資することは重要だと思いますが、大抵の企業では、運用コストと新規システム開発/構築を含めたIT予算があらかじめ決められています。その中で新技術による開発にどの程度まで投資するかは判断に迷うところと考えますが。
行徳氏:当社の場合に限って言えば、新技術の導入など、戦略的なIT投資については事業投資の1つと見なされ、CIOの裁量で比較的フレキシブルに投資額が決定できるようになっています。とはいえ、ITに対して無尽蔵に資金を投入できるわけではありません。逆に、ITコストの削減は経営サイドから引き続き強く求められています。だからこそ、我々は共通プラットフォームの実現に力を注いできたと言えるのです。
廣川氏:コスト削減が共通プラットフォームの大きな目的の1つであったということですね。
行徳氏:そのとおりです。例えば、従来は、システム開発のプロジェクトごとにプラットフォームの設計/構築を行ってきました。しかし、共通プラットフォームの実現により、その必要性はほとんどなくなっています。また、共通プラットフォームの構築以前、当社におけるサーバの稼働率は平均で50%を切る状態にありました。その稼働率も仮想化技術を採用した共通プラットフォームのおかげで大幅に高まり、結果として、物理サーバの発注件数も最小限に抑えられるようになったのです。実際、共通プラットフォームを稼働させてからおよそ1年間は、物理サーバの新規発注はほぼゼロで済んだほどです。
廣川氏:システム開発や構築のスピードも増したのではないですか。
行徳氏:その点も大きな効果と言えますね。今では、プロビジョニングを行うだけで必要なサーバ環境をすぐに立ち上げられます。具体的に言えば、2日間もあれば新たなサーバ環境を立ち上げ、稼働させることができるということです。
OSSの導入効果は期待を超える
廣川氏:御社の共通プラットフォームにはレッドハットのOSSソリューションをご採用いただいています。そのプロジェクトの革新性から、今年5月に米国で行われた当社最大のイベントで、日産自動車はRed Hat and JBoss Innovation Awardを受賞され、行徳さんには世界のCIOの代表として基調講演をしていただきました。ここで改めて、レッドハットのソリューションを導入した目的と効果についてお聞かせいただけないでしょうか。
行徳氏:最大の目的は「コストの削減」ですが、その点では我々が期待した以上の効果をすでにもたらしてくれています。
また、オープンソースには、コミュニティの成果が活用できる──とりわけ、世界中の優秀なアーキテクト/エンジニアが共同開発した技術が利用できるという大きな魅力があります。
しかも、レッドハットの場合、そうした先鋭技術を集約/検証したうえで、スイート製品としてサービス化して提供してくれるので、企業は安心して活用することができます。そうした導入/活用の敷居の低さや付加価値/信頼性の高さが、レッドハットのソリューションを採用する決め手となったわけです。また一般的に、OSSの活用には高い技術力が社内に必要と見なされていますが、レッドハットの信頼できる製品/サービスを利用したことで決してそうではないと実感しました。
ユーザー企業が単独で無数にあるオープンソース技術の中から有用な技術を探し当て、検証し、サポートするのは極めて困難です。しかし、コミュニティやレッドハットのようなソリューション・プロバイダーの力を借りることで必要な技術を統合的に利用していくことが可能になります。ユーザー企業にとって、そのメリットは大きいと言えるでしょう。
廣川氏:ご指摘いただいたとおり、レッドハットのOSS製品/サービスの導入メリットは、コミュニティの成果が活かせるだけではなく、信頼性や互換性が徹底的に検証されたソリューションとして優れたオープンソース技術が活用できる点にあります。
加えて、当社では、Linux OSはもとより、ミドルウェアのJBossや仮想化技術のKVMなどを統合的にサポートするコンサルティング・サービスも展開しています。これらのサービスをご活用いただければ、「コスト」「スピード」「イノベーション」という、今日の企業ITに求められる要件を包括的に満たしていくことが可能になるのです。
行徳氏:イノベーションは、当社のIT改革の取り組みにおいても重要なテーマの1つとなっていますが、オープンソース技術の革新のスピードにはやはり目を見張るものがあります。実際、注目に値する先進的な製品や技術をとらえてみても、その多くがオープンソースの技術です。これはまさしく、OSSモデルの強力さの証明と言えるでしょうし、コミュニティの知を土台に新技術がスピーディに提供されることは、OSSならではの強みであり、メリットと言えるのではないでしょうか。
廣川氏:その点で、御社の共通プラットフォームにLinux OSだけでなく、ミドルウェアのJBossも併せて導入されたメリットは大きいと確信しています。また、今後はクラウドの分野でもお役に立てると思います。当社はDeltacloud(デルタ・クラウド)と呼ばれるAPIを通じてハイブリッドなクラウド環境を実現する「OpenShift」やクラウド上でアプリケーションの環境開発を提供するPaaS「OpenShift」の提供に力を入れていきます。
行徳氏:当社が計画している次世代共通プラットフォームの大きなテーマも、まさにクラウドです。社外のサービスも活用しながら、統合的にクラウドを管理できるようにしていきたいと考えています。その課題領域でも異種間のクラウドやシステムの統合管理を可能にできるOSSに期待したいですね。
廣川氏:次のチャレンジに取り組まれている行徳さんですが、最後にCIOの方々にメッセージがあればお願いします。
行徳氏:企業ITの標準化は大変なことのように見えますが、動き始めると必ず“ペイ”します。最初から完璧なことはできません。ですから、まずは行動を起こすことが大切です。要は、シンプルにスタートして、あとから必要なものを付け加えていけばいいということです。
OSSもシンプルでスペックごとに追加がしやすいので、標準化には大いに役立ちます。そうした技術を用いながらITの標準化を推し進め、ぜひITをグローバル・レベルで可視化し、ガバナンスを効かせていただきたいと考えます。![]()
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